九谷焼ってどんな焼き物?歴史、特徴、見分け方を徹底解説

九谷焼は、日本を代表する伝統工芸品の一つで、石川県加賀地方で生まれた「色絵磁器(いろえじき)」です。その起源は江戸時代初期にさかのぼり、約370年の歴史を持つ焼き物として知られています。

最大の特徴は、緑(青)、黄、紫、赤、紺青(群青)の五彩と呼ばれる鮮やかな色使いによる絵付けです。この五彩が組み合わさることで、九谷焼は他の陶磁器にはない独特の華やかさと力強さを持っています。花鳥風月を大胆に描いた豪快な作品から、繊細な文様を施した優美な作品まで、幅広い表現が魅力です。また、伝統的な器だけでなく、現代ではアクセサリーやインテリア雑貨など、新しい形で私たちの生活を彩る作品も生み出されています。

九谷焼はその芸術性の高さから、国内外で高い評価を受けていますが、一方で実用性も兼ね備えた作品が多いため、日常生活にも溶け込みやすい魅力があります。この記事では九谷焼の歴史から魅力まで詳しく解説します。

九谷焼の歴史

九谷焼は、約370年の歴史の中で、一時廃絶の危機を乗り越え、現代まで力強く進化を続けてきた日本の伝統工芸品です。この章では、九谷焼の歴史をひもとき、その魅力に迫ります。

九谷焼のルーツ – 江戸時代初期に誕生した色絵磁器

九谷焼の始まりは明暦元年(1655年)頃、加賀藩三代藩主前田利治の命を受けて、九谷村(現在の石川県加賀市)で作陶が始まったことにあります。当時、加賀藩は藩の経済基盤を強化するため、新たな産業として陶磁器の製造に着目しました。

九谷焼の制作には、中国・景徳鎮の色絵磁器が大きな影響を与えました。景徳鎮の高度な色絵付けの技術や、鮮やかな色彩表現などが取り入れられ、日本独自の華やかな陶磁器が誕生したのです。これが、後に「古九谷(こくたに)」と呼ばれる九谷焼の最初のスタイルとなりました。

古九谷の時代 – 幻の焼き物が伝える革新的な美

九谷焼の初期の作品群である「古九谷」は、大胆な構図と強烈な色彩が特徴です。緑(青)、黄、紫、赤、紺青(群青)の五彩を大胆に用いた、華やかで力強い意匠は、当時の日本の陶磁器には見られない革新性を持っていました。

しかし、「古九谷」の生産は約50年で突然途絶えます。その理由については諸説あり、九谷村の鉱物資源の枯渇や、幕府による奢侈禁止令などが影響した可能性も指摘されています。この短命さゆえに、「古九谷」は希少性が高く、幻の焼き物として語り継がれるようになりました。

再興九谷 – 苦難を乗り越え再び花開いた九谷焼

古九谷の廃窯から約100年の時を経て、江戸時代後期の19世紀初頭、九谷焼は再びその灯を灯します。この再興の立役者となったのは、大聖寺藩(現在の石川県加賀市周辺)の豪商、豊田伝右衛門でした。文化3年(1806年)、加賀藩が京都から青木木米を招き、金沢の春日山に窯を開かせたことが再興の契機の一つとなります。その後、文政7年(1824年)、豊田伝右衛門は私財を投じ、九谷村の古窯跡に吉田屋窯を開窯しました。これが「再興九谷」の始まりです。

再興九谷は、古九谷の大胆な意匠を受け継ぎながらも、京都で学んだ京焼の色絵付けの技法を取り入れることで、より繊細で緻密な表現を追求しました。特に、吉田屋窯では、赤を使わずに緑(青)、黄、紫、紺青(群青)の四彩を基調とした「青手(あおで)」と呼ばれる様式を生み出しました。また、この時期には、赤絵細描を得意とする「宮本屋風(飯田屋風とも)」、金彩を多用した「永楽風」など、九谷焼を代表する多彩な画風が確立され、九谷焼は再びその名声を高め、日本全国、さらには海外にもその名を知られるようになりました。

現代九谷 – 伝統と革新の融合が生み出す新たな価値

現代の九谷焼は、伝統技法を守りつつも、現代的なデザインや新たな用途に適応した作品が次々と生み出されています。伝統的な食器や装飾品だけでなく、アクセサリーやインテリア雑貨といった現代のライフスタイルに合ったアイテムも人気です。

さらに、若手の陶芸家やデザイナーが新しい技法や表現を取り入れ、九谷焼の魅力を国内外に広めています。このように九谷焼は、時代を超えてその美しさを進化させ、未来へと受け継がれていく日本の宝と言えるでしょう。

九谷焼の特徴

九谷焼の最大の魅力は、その華やかさと独特な美しさを生み出す絵付け技法にあります。五彩(緑(青)、黄、紫、赤、紺青(群青))の鮮やかな色使いが織りなす芸術性は、他の陶磁器にはない個性を放っています。この章では、九谷焼を支える技法や代表的な画風について詳しくご紹介します。

上絵付け – 鮮やかな色彩を生み出す九谷焼の命

九谷焼の最も特徴的な技法は「上絵付け」です。上絵付けとは、焼成後の素地(磁器や陶器の本体)に釉薬をかけた後、さらにその表面に絵柄を描き、もう一度焼成する技法を指します。釉薬を通して絵柄を見ることで、独特の透明感と深みが生まれ、さらに二度焼成することで絵柄が定着し、立体感も生まれます。

特に九谷焼の上絵付けでは、顔料が非常に鮮やかで、五彩の色がそれぞれ引き立つように工夫されています。緑(青)や黄の深い発色、紫の柔らかな色合い、赤の鮮烈な輝きなど、職人たちの熟練した技が光る部分です。この技法は手間がかかりますが、九谷焼の独特な華やかさを生み出す命とも言えます。

呉須の技法 – 輪郭線が作品に与える力強い印象

「呉須(ごす)」とは、九谷焼の絵付けで使用される青い顔料のことで、酸化コバルトを主成分としています。呉須を用いて描かれた輪郭線は、九谷焼独特の力強い印象を与える重要な要素です。この輪郭線は、五彩の色彩を引き立てる枠組みとして機能し、デザイン全体の統一感と美しさを際立たせます。

呉須の技法は、特に古九谷や再興九谷の作品でよく見られ、その深みのある青色が作品の格式を高めています。また、呉須による線の強弱や濃淡が、作品に奥行きと動きを与えています。

代表的な画風 – 吉田屋風、宮本屋風、木米風などの比較

九谷焼は、時代や窯元によってさまざまな画風が発展してきました。ここでは、特に代表的な3つの画風をご紹介します。

吉田屋風 – 重厚で力強い作風

吉田屋風は、文政年間(1818年~1830年)に、豪商・豊田伝右衛門によって再興された九谷において、その中心的な窯であった吉田屋窯で確立された画風です。古九谷の大胆な構図や力強い五彩の使い方を色濃く受け継ぎ、緑(青)を背景に多用し、その上に花鳥や山水などの絵柄を力強く描くのが特徴です。五彩を惜しみなく用いた重厚な色使いは、見る者に強い印象を与えます。しかし、吉田屋窯はわずか数年で廃窯となり、その作風は一時途絶えますが、後の九谷焼に大きな影響を与え、現代でも九谷焼の象徴的な画風の一つとして知られています。

宮本屋風 – 赤絵細描の緻密な世界

宮本屋風は、江戸時代後期から明治時代にかけて、主に輸出向けに盛んに生産された画風で、別名「飯田屋風」とも呼ばれます。赤色を基調とし、極めて細い線で緻密に文様を描き込む「赤絵細描(あかえさいびょう)」の技法が最大の特徴です。花や唐草模様などが隙間なく細部にわたって描き込まれ、その緻密さと華やかさは、豪華さと優雅さを兼ね備えています。この技法は海外で高く評価され、「ジャパンクタニ」として世界にその名を知らしめるきっかけの一つとなりました。

木米風 – 文人好みの洒脱な意匠

木米風は、京都の文人画家であった青木木米が九谷に招かれたことによって生まれた画風で、他の画風とは一線を画す、文人趣味に合わせた洒脱(しゃだつ)な意匠が特徴です。「文人趣味」とは、中国の古典や漢詩、書画などを愛好する文化人の趣味のことで、木米風の作品には、水墨画のような淡い色彩や、余白を効果的に使った構図など、文人画に通じる要素が見られます。気品と抑制の効いた美しさは、主に趣味人や知識人の間で高く評価されました。木米が九谷焼にもたらした影響は大きく、九谷焼に新たな表現の可能性を拓いたと言えるでしょう。

九谷焼の種類 – 日常を彩る多様な器たち

九谷焼は、鮮やかな絵付けが魅力の伝統工芸品ですが、その用途は幅広く、日用品から装飾品、さらには現代的なデザインのアイテムまでさまざまです。華やかさと機能性を兼ね備えた九谷焼の種類をご紹介します。

食卓を彩る器 – 皿、茶碗、鉢など

九谷焼の皿や茶碗、鉢などは、花鳥や風景が描かれたものが多く、来客時や特別な食事の席はもちろん、日々の食卓を彩る器としても最適です。鮮やかな絵付けが料理を引き立て、食卓を華やかに演出します。

暮らしを豊かにする – 花瓶、壺、香炉など

九谷焼の花瓶や壺、香炉などは、そのデザイン自体が部屋を美しく演出します。生活空間に彩りと華やかさを加える装飾品として人気です。

現代の九谷焼 – アクセサリー、インテリア雑貨など

九谷焼は伝統工芸品の枠を超え、アクセサリーやインテリア雑貨としても人気を集めています。伝統的な上絵付けの技法と現代的なデザインが融合した、華やかな色彩が目を引くおしゃれなアイテムとして、海外でも注目されています。

九谷焼の見分け方 – 本物を見極めるポイント

九谷焼はその美しさと独自性から、多くの人に愛されている一方、類似品や偽物が出回ることもあります。本物の九谷焼を手に入れるためには、細部に注目し、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。この章では、九谷焼を見極めるための具体的な方法をご紹介します。

絵付けの細かさ – 職人技が光る緻密な表現

九谷焼の絵付けを見る際には、筆遣いや線の太さ、色の濃淡などに注目しましょう。本物の九谷焼は、熟練の職人による緻密な絵付けが特徴です。色彩が鮮やかなだけでなく、絵柄が繊細で緻密に描かれています。

特に、葉脈や花びらの細部、動物や人物の表情など、細やかなタッチに注目してください。手描きの絵付けでは、線の太さに微妙な強弱があったり、色に濃淡があったりします。これは、職人の筆遣いによって生まれる自然な表現であり、機械的な均一さとは異なります。転写シートなどを用いた大量生産品では、線が均一で平板な印象になりがちです。

色使い – 五彩の鮮やかさと調和

九谷焼を象徴する五彩(緑(青)、黄、紫、赤、紺青(群青))の色彩は、鮮やかさと調和が特徴です。本物の九谷焼は、これらの色が大胆かつ調和的に配置され、全体として美しいバランスを保っています。

偽物や模倣品では、色が鈍かったり、配置が不自然だったりすることがあります。また、上絵付けの透明感や奥行きが不足している場合も、本物ではない可能性があります。光を当ててみると、五彩の色が重なり合い、奥行きや立体感を感じられるのが本物の特徴です。逆に、色が平面的に見える場合は、注意が必要です。

裏印 – 窯元や年代を示す重要な手がかり

九谷焼の裏印は、窯元や年代を知る上で重要な情報です。底部には「裏印」と呼ばれる刻印やサインが入れられています。これは、どの窯元で作られたのか、あるいはどの年代に制作されたのかを示す重要な手がかりです。

例えば、「九谷」、「大日本九谷」、「九谷製」、「加賀」などの文字や、特定の窯元の名前が書かれているものが多いです。(ここに裏印の画像を挿入)一部の作品には、職人の名前が直接書かれていることもあります。古い九谷焼の場合、裏印の形式が異なることがあるため、骨董品の場合は専門家に鑑定を依頼するのも良い方法です。特に、古九谷には裏印がないものがほとんどです。

購入時の注意点 – 偽物や類似品に気をつけよう

信頼できる店舗や窯元で購入することが、偽物を避けるための最善の方法です。ネットショップを利用する場合は、販売元の信頼性を確認し、レビューや評価も参考にしましょう。具体的には、古物商許可証の有無や、連絡先や所在地が明記されているかなどを確認すると良いでしょう。また、高価なものを購入する際は、商品の来歴を示す証明書や保証書が付いているか確認することが重要です。

特に骨董品やオークションで九谷焼を購入する場合は、プロの鑑定士に依頼することで安全性が高まります。価格が極端に安いものや、説明が曖昧なものには注意が必要です。相場価格を事前に調べておくことも大切です。

まとめ

九谷焼は、約370年の歴史を紡ぎ、幾多の変遷を経て現代に受け継がれてきた、日本を代表する伝統工芸品の一つです。その美しさは、職人たちの熟練の技と情熱が込められた、五彩が織りなす華麗な色彩や、繊細な筆致で描かれた緻密な意匠に凝縮されています。九谷焼の華やかさや奥深い歴史を知ることで、私たちはその美しさに触れるだけでなく、日本の伝統文化の豊かさや、職人たちのものづくりへの情熱を感じ取ることができるでしょう。

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